「所属が決まりました。ではまず宣材写真を撮りましょう。提携スタジオで10万円です」――この一文で、その事務所の正体はだいたい分かる。今日はその話をする。
宣材写真(コンポジット)はモデルの履歴書だ。必要なものであることは間違いない。だからこそ、そこに値札の魔法がかけられる。
宣材写真の相場を全部書く

- セルフ撮影:0円。SNS応募や撮影会エントリーなら、明るい場所+無地背景で十分通る時代
- フリーのカメラマン:1〜3万円。相場の中心。データ納品と使用範囲を確認
- スタジオパック:3〜5万円。ヘアメイク込みならこのレンジは妥当
- 事務所「提携」スタジオ:5〜10万円超。ここが問題の震源地
高い宣材=いい宣材、ではない

案件の担当者が宣材に求めるものは、豪華さではない。いまのあなたと同じ姿であることだ。過度なレタッチで盛った宣材は、現場で「写真と違う」という最悪の第一印象を作る。シンプルな背景、自然な光、現在の髪型。必要なのはそれだけで、それは10万円もかからない。
「提携スタジオ限定」の罠

外部での撮影を禁止し、提携スタジオだけを許す。価格は市場の倍。この構図で誰にお金が流れているかは、想像の通りだ。宣材を口実にした徴収は、所属前にお金を求める古典的な手口の変形である。
これは想像で書いているのではない。国民生活センターは若者向けの注意喚起で、レッスン料や宣材写真代の名目で支払いを次々に重ねさせる手口を警告している。東京都の相談窓口には、オーディション合格をきっかけに約50万円のレッスン契約を結ばされ、解約を申し出たら「入会金35万円は返せない」と言われた事例が寄せられている。宣材写真の請求は、この長い請求書の1行目にすぎないことが多い。
カメラマン選びで失敗しない3つの質問

- 「宣材・オーディション用の撮影実績を見せてください」――作品撮りと宣材は別の技術
- 「料金にデータ納品と使用権は含まれますか」――あとから請求される項目の代表
- 「レタッチはどこまでやりますか」――「全部盛ります」は褒め言葉ではない
撮った宣材は、置き場所で価値が変わる

もう一つ、10万円のスタジオパックより大事な話がある。宣材はハードディスクの中では働かない。1万円の宣材+正しい置き場所は、10万円の宣材+死蔵に必ず勝つ。
いまはモデル本人が無料でコンポジットを公開できる場所がある。例えばモデルと事務所をつなぐポートフォリオプラットフォーム「VibeList」は、本人確認済みのプロフィールが前提で、公開範囲も自分でコントロールできる。なりすましDMだらけの時代には、「確認できる場所に公式のプロフィールがある」こと自体が防御になる。偽物はあなたの名前を名乗れても、あなたの認証済みポートフォリオは名乗れないからだ。
よくある質問
スマホの自撮りでも通用する?
用途による。撮影会や SNS 経由の応募なら十分。大手事務所のオーディションや広告系の売り込みなら、プロの1〜3万円レンジを一度は経験する価値がある。
どのくらいの頻度で撮り直す?
髪型や体型が変わったら即。変わらなくても1年を目安に。宣材の鮮度は、あなたが思っているより先方に見られている。
撮ってもらったデータの権利は誰のもの?
契約次第だ。著作権は原則として撮影者にあるため、「宣材として自由に使える」ことを文面で確認しておく。ここを曖昧にすると、自分の顔写真を自分で使えないという冗談のような事態が起きる。
もう「提携スタジオ」で払ってしまった
契約書と領収書を手元に集めて、消費者ホットライン「188」へ。同種の相談は国民生活センターのテーマ別特集に大量に蓄積されていて、窓口は手口を知っている。恥ずかしがる必要はない。恥ずかしいのは騙した側だ。
宣材は投資だ。ただし投資には相場がある。相場を知らない投資家から順に、市場から退場させられる。
